世話当番も回りまわって三日目ですか。
先に済ませたルカ達はなんにも問題無いと言っていたし、僕達も大丈夫でしょう。

…ただ、二日目はどうだったんでしょうね…。
リオン殿とワルター殿は前から少し馬が合わないところがお有りでしたから…。
に悪影響などを与えていなければ良いのですが…。




三日目……イオン、フォレスト、アニー、プレセア














広場で待ち合わせをしていた僕らは遠くに見えた影にそっと頬を緩めた。
小さなが一生懸命リオン殿の手に掴りながら歩いてきていたからだ。


僕が軽く手を振ってみると、が手を放し走り出そうとした。
だけど足元にあった石に躓き、体が傾く。

皆が息を呑んだが、の体が地につくことは無かった。



倒れる瞬間にワルター殿が受け止めたからだ。


まだ遠くてよく会話は聞こえなかったけれど、ワルター殿はリオン殿に向かって何か言っていた。
それは言い争いなどではなく、普通に穏やかに交わされる会話。
ワルター殿が何か言う、リオン殿が頷き返事を返す。


今までには見られなかった光景だ。





のお陰だろうか。
あの二人も仲良くなったとまではいかなくとも、の目の前では穏やかに過ごしてくれていたんだろう。
それがなんだかとても嬉しかった。




「いおんー。おはよー」
「おはようございます。昨日は楽しかったですか?」
「うん!あのね、くらとしゅのごはんたべて、しんくとおふりょはいって、わりゅたーとおしゃんぽいって、りおんのけんとおしゃべりしたの」
「へえ…」



チラリと自分の弟を見れば、肩を竦め溜息を吐かれた。
その様子から昨日は結構色々あったようだ。
だけどが喜んでいるのなら問題は無いだろう。





、今日はお城へ行きますよ」
「おしろ?」

きょとんと首を傾げる姿が愛らしく、笑みがこぼれる。


「ピオニー陛下のお城です。ジェイドも貴方に来て欲しいと言ってましたよ」


そう、今日は週に一回の定期健診の日。
こんな状態になっていることは普通なら異常、故に定期的に検査を受けなければまた何か起こるかもしれない。



「今日だったの?検査」
「丁度僕とフォレスト殿が城に呼ばれてるんです。なら今日済ませてしまおうかと」


ただ、僕はギルドの会合、それにフォレストはティルキス殿下の許へ行くから検査には立ち会えない。
その間は医療に詳しいアニーや情報分析に長けているプレセアがいてくれるから心配はないけれど…。




「どうせならついていてあげたかったです」



























「おおー来たか、!!ほれほれ、こっち来い」


玉座に座るその人はヴィノセの王族、ピオニー・ウパラ・ヴィノセ。
五代目皇帝陛下の座につく程のお方なのだが、本人を見ると全然そうは思えなくなってしまう位気さくな方だ。

はきょとんとしているけれど、ゆっくりと陛下の許へ近づいていく。
ある程度近づくと陛下がを抱き上げ、膝に乗せた。



、俺のこと覚えてるか〜?」
「…ぴ、ぴおにーへーか!」
「うーん合ってるけどなーは“陛下”じゃなくて“
パパvv”って呼ぼうな」
「ぱぁぱ?」


が窒息してしまわないか不安になる程ぎゅうっと抱き締める陛下。
流石にあんな愛らしい姿で「パパ」なんて呼ばれれば誰だって骨抜きだろう。

だけどそろそろ止めないと、が本当につぶれてしまう。



へーいかvvそれ以上に抱きついているとサンダーブレードの刑ですよ♪」
「…親子の感動の対面を邪魔する気か…ジェイド」
「誰と誰が親子ですか。にこんなお気楽能天気国王の血が流れてたらお終いです」
「……不敬罪で訴えるぞ、お前」



現れたジェイドにより、は救出された。
多少髪はボサボサになってしまったが、それ以外は問題ないようだ。




、体はその後異常ありませんか?」
「ないよっ。げんき!!」
「そうですか。…まあ、見た限りではなんとも言えませんがマナも少しずつ増えてるみたいですね」


髪を撫でながらついでに陛下によってボサボサにされた頭を直すジェイド。
そのまま手をひいて、謁見室を出て行く。


「では少しを借りますね。アニー、プレセアも一緒に来るならどうぞ」
「はい」
「では行って来ますね。イオンさん、フォレストさん」



「はい、を頼みましたよ」
「俺達は一時間ほどで終わる。先に終わったのなら館へ行って構わないからな」






















ギルドの会合では主に各地のギルドに寄せられるクエストで何が多かったか集計を出したり、情報交換等の場として設けられる。
人材不足のギルドは此処で希望を出せば、他所から派遣してもらうことも出来る。

僕のいるエルグレアのギルドは後方支援の方が多いのでよく人材派遣を頼まれる。
代わりに前衛の出来る方を僕は派遣してもらうことでクエストを円滑にこなすことが出来るのだ。




「大体のことは報告し終わったか」



会議を仕切っていたクラトス殿が報告書をまとめて皆を見渡す。
もう何も無ければ会議は終わりなのだが……




「終わりのところすまない。…のことなんだが」





ピクリ




ユージーン殿が出した名前に全員が反応した。









「まだ元には戻っていないのか?」

「ええ、今日僕が定期健診に連れてきました。今日の結果で…何かわかると思いますが」

「そうか…。……彼が元に戻った際には、すまないがレディアに来てもらえないだろうか。うちのアドリビトム全員たっての希望でな」


「「「!!!??」」」









「ちょっと待ってくれ、の行き先については本人の希望によると決めていただろう」

ウィル殿が口を挟むと、ユージーン殿は少しばつが悪そうな顔をした。



「ああ…勿論それはの判断に任せる。だが約二名程が小さくなったことを知らない者がいる。いきなり連絡が途絶えたことを怪しんでいるんだ」
「なんで教えなかったんだい?のことはリーダーからアドリビトムに話す予定だったんだろ?」
「…個人的に問題があると俺が判断した」


ユージーン殿の耳がぺたりと倒れる。
一体誰のことを言っているのかは判らなかったが、余程悩まされているのだろう。
疲れが顔に出ている。





「それなら…クラース。一応、が戻った時話してくれるか?」

「ま、深刻そうだしな。わかった」


この話はどうやら上手くまとまったようで、ユージーン殿もホッとしている。
の性格から考えて、聞けばレディアに向かうだろう。



「ところで、君の所属はイクセンなのかい?」
「…そうだが。どういう意味だ?カーレル殿」


不思議そうな顔で言うカーレル殿に対してクラース殿は少しムッとした顔で答える。




「彼においては本人権限で各地へ行けるだろう?それだけ能力値が高いという評価にも繋がる。

 ……良ければ、我が軍へどうだろうと思ってね」


「!!そういう話なら、私も入れてもらおう。ホーリークレスト軍も彼を欲している」



ああ、カーレル殿に煽られてヴァン殿まで…。
クラース殿の眉間に皺が寄せられていく。




大体一つの所がそんなことを言い出せば…




「そういうことを言って良いならうちだって!」

「いいや!うちだ!!」





会議は最後の最後で大騒ぎになった。








「………いい加減にしろ――――!!!!はウチの子だ!!!!」







クラース殿がとうとう切れてしまい、会議はそのまま解散となった。

















「イオンは何も言わなかったのだな」
「先程の会議ですか?」


会議室を出て、そうユージーン殿に話しかけられた。
何も言わない、と言うのはに来て欲しいと先程の会議で発言しなかったことを言うのだろう。
その通り、僕は敢えて黙って傍観していた。



「彼を欲しがるのは全てのギルドに共通しています。僕達エルグレアも例外じゃありません。…けれど」
「けれど?」



「彼は一つの場所に留まる人じゃないですから。自由な方が似合います。帰る場所が一つある、それで良いと思います」
「……そうだな。その通りだ」




結局会議は一時間以上経ってしまった。
もう既にアニーとプレセアは帰っているだろう。

ならば、王座の間に向かって陛下に挨拶をして僕も館へ向かおう。









「失礼します。ピオニー陛下……あれ?」
「陛下?」



王座に陛下の姿は無い。

不思議に思い、側近のフリングス殿を捜すが彼も此処にはいないようだ。





「おや、二人共。会合はもう終わったのですか?」


僕達の後ろの扉から入ってきたのはジェイド。
ユージーンが陛下の詳細を訊ねる。


「ジェイド。陛下に挨拶をしようと思ったんだが…何処かへ行かれたのか?」
「陛下?……あの馬鹿陛下、また逃げやがりましたね」





王のいない王座を見るなりジェイドは部屋を出て行く。
僕達もそれについていくように追いかけると、王座の間の二階、即ち陛下の私室に辿り着いた。





「陛下。まだ執務は残ってま
「シーーーーーーー」……は?」




ノックもせず、ドアを開け放ったジェイドを迎えたのは捜していた陛下本人だった。
口元に指を当て、静かにするよう僕達に言う。



「天使が起きちまうだろうが」
「は?………ああそういう」



奥の部屋にある陛下のベッドの上で小さな塊が見えた。
それは今日一緒にこの城へ来た
気持ち良さそうに眠っている。




「検査後俺と遊んでたんだが、眠くなったみたいでな。寝かせてやってたんだ」
「先に帰ってくださいと言っておいたんですが…」
さん、イオンさんとフォレストさんも一緒に帰るって。待ってたんです」



アニーの言葉に口元が緩むのが抑えられない。
一緒に帰ることを望んでくれて、待っててくれていたなんて。
検査で疲れただろうに、待ちくたびれて眠ってしまう程だったのに。




「これが検査結果です。前とあまり変わりはありませんがマナは少しずつ増えてますから心配無いでしょう。

 まあ敢えて注意するならあまり甘やかさないようにですかね。皆さんに対しては少々我儘を聞いちゃいそうですから」



ジェイドのオマケのような注意に笑みがこぼれる。
確かに僕らはに対しては甘いかもしれないが、きっとジェイドも同じなのだろう。
人に言いながらも、それは自分自身に言い聞かせているように思える。



「それでは僕らはこれで失礼します」

「ええ。、また来週ですね」


ジェイドが眠っているの頬をつついていると後ろで陛下が騒いでいた。

〜〜〜〜!!また離れ離れだけどパパのこと忘れるんじゃないぞ〜〜!!」
「だから誰がパパですか、鬱陶しいですよ」



こんな騒ぎの中でも起きないはきっと大物になるに違いない。